「刑法 児童ポルノ法7条4項にも5項にも該当する行為に5項を適用することの可否 - 神戸大学准教授東條明徳」法学教室2024年9月号
最高裁令和6年5月21日第3小法廷判決
■論点 児童ポルノ法7条4項と5項との関係〔参照条文〕児童買春法7条4項・5項
【事件の概要】 被告人Xは、就寝中の被害児童に対して強制性交等の行為を行うとともに、その様子をスマートフォンで動画撮影して児童ポルノを製造した。これらの行為は、性交等を行って撮影している点で児童ポルノ法7条4項の製造罪(以下、「4項製造罪」)に該当すると同時に、就寝中に撮影している点で同5項の製造罪(以下、「5項製造罪」)にも該当し得る。原判決は、このような行為に5項製造罪を認めた第一審判決を是認した。これに対し、Xは、原判決の判断は、5項が「前二項に規定するもののほか」と規定する以上、5項が適用されるのは4項不該当の場合に限られるとした高裁判決(大阪高裁判令和5・1・24)に反するとして上告した。
【判旨】 〈上告棄却〉 「児童ポルノ法7条5項が、ひそかに児童の姿態を撮影するなどして児童ポルノを製造するという行為態様の違法性の高さに鑑み、同条3項及び4項の各児童ポルノ製造に加えて、処罰対象となる児童ポルノ製造の範囲を拡大するために制定されたという立法の趣旨及び経緯、並びに、同条4項、5項の各児童ポルノ製造罪の保護法益及び法定刑に照らせば、児童に姿態をとらせ、これをひそかに撮影するなどして児童ポルノを製造したという事実について、当該行為が同条4項の児童ポルノ製造罪にも該当するとしても、なお同条5項の児童ポルノ製造罪が成立し、同罪で公訴が提起された場合、裁判所は、同項を適用することができると解するのが相当てある。そのように解さなければ、事案によっては、同罪で公訴を提起した検察官が同条4項の児童ポルノ製造罪の不成立の証明を、被告人がその成立の反証を志向するなど、当事者双方に不自然な訴訟活動を行わせることになりかねず、さらには、ひそかに児童の姿態を撮影するなどして児童ポルノを製造したことは証拠上明らかであるのに、裁判所が同条5項を適用することができないといった不合理な事態になりかねない。同項にいう『前2項に規定するもののほか』との文言は、以上の解釈を妨げるものではない。」