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「老いる家 崩れる街(住宅編4節抜書) ー 野澤千絵」老いる家 崩れる街 住宅過剰社会の末路 講談社現代新書

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「老いる家 崩れる街(住宅編4節抜書) ー 野澤千絵」老いる家 崩れる街 住宅過剰社会の末路 講談社現代新書

「再自然化」し始める住宅団地

大都市から少し離れた郊外の住宅団地に行くと、まちの「スポンジ化現象」が、他のまちよりも先行して現れている光景を目の当たりにすることがあります。
前ページの写真は、都心から50キロ圏、埼玉県のほぼ中央にある東武東上線東松山駅から約3㎞離れた丘陵地にある住宅団地群の一つです。この住宅団地は、放置された空き家や空き地がいたるところにあるだけでなく、周辺の木々・植物が放置された空き家に覆いかぶさり、まるで「再自然化」し始めたかのような場所が見られるようになっています。
この住宅団地は、最寄りの鉄道駅まで約3㎞、スーパーまでは2㎞以上あり、車がないとアクセスするのが難しい丘陵地にあります。小学校は住宅団地内にありますが、1学年10~25名で、全校生徒が100名ににも満たない状況です。
開発後すでに40年以上経過しており、住宅が老いているだけでなく、居住者の老いも進行しています。そのため、この団地に住んでいる住民の寿命が尽きる時期になると、その相続人が引き続き居住する場合は良いのですが、居住しない場合、老いた住宅をどうするかという「住宅終末期問題」が噴出することとなります。
相続した住宅が値段を下げても売れない場合には、放置・放棄される空き家・空き地が増えてしまい、いずれゴーストタウンになってしまう危険性もあるのです。
実際にこの住宅団地では、土地を売りたくても買い手がつかない状況なのか、近隣住民に向けて「43坪格安売ります」という手作り看板(所有者の電話番号が書かれている)が空き地に立てられており、地主自らが土地の買い手を探そうとしている様子がうかがえます。

 

空き家のタイプ4類型

野村総合研究所によると、住宅の除却や住宅以外の用途への有効活用がこのまま進まない場合には、2023年には5戸に1戸が空き家に、2033年にはなんと3戸に1戸が空き家になると予測されています。この背景には、2025年前後には日本人口の5%を占めている団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になり、2035年前後には、団塊の世代の死亡数が一気に増えると予想されることが挙げられます。
近年、老いた住宅の居住者の死後、相続人がその住宅を引き継いで居住するケースが少なくなっているため、全国のいたるところで、老いた団塊の世代の寿命が尽きてしまうある時期から、空き家が爆発的に増加する危険性があるわけです。
メディアではこれまで、空き家が急増していることや、「放置空き家」が周辺の住環境や資産価値に影響するといった問題がクローズアップされてきました。しかし、空き家といっても実は様々なタイプがあり、また、その空き家が建つ立地も様々で、こうした詳細な分析をもとに、今後の住宅政策や都市計画をきめ細かく考えていくことが重要です。
空き家のタイプには、国の住宅・土地統計調査によれば、「賃貸空き家」「売却用空き家」「二次的住宅」「その他空き家」という4つの類型があります。「賃貸空き家」は賃貸のために空き家になっている住宅、「売却用空き家」は、売却のために空き家になっている住宅、「二次的住宅」は、別荘やふだん居住する住宅とは別に、残業で遅くなったときなど、たまに寝泊まりしている住宅、「その他空き家」は、転勤・入院などにより居住世帯が長期にわたって不在の住宅や、建て替えなどのために取り壊す予定の住宅、空き家の区分の判断が困難な住宅のこととされています。
この空き家のタイプの中でも、国の住宅政策の中で着目されているのが、「その他空き家」です。「賃貸空き家」や「売却用空き家」は、所有者によってそれなりに維持管理がなされる可能性が高いと考えられますが、「その他空き家」は、賃貸したり、売却しようとしているわけではないため、いずれ周辺の住環境に影響するような「問題空き家」へと発展途上する可能性があるのです。

 

老いた住宅に老いた居住者が

さて、2013年時点で居住されている住宅ストック総数は、約5210万戸ですが、これを建築年代別に見ると、新耐震基準施行前の1980年以前に建築された住宅は1369万戸にもなります。つまり2013年現在、居住されている住宅のさわりにのぼる住宅が、築35年以上経つ老いた住宅です。もちろん、1980年以前に建築された場 場合でも、耐震性が確保されている住宅もあります。いずれにせよ、こうした老いた住宅には、高齢者世帯が住んでいる場合が多くなっています。国土交通省の資料によると、1980年以前に建築された住宅の約42%(580万戸)に高齢単身・高齢夫妻ね世帯が居住しています。
つまり、老いた住宅に老いた居住者が住んでいるまちが全国いたる所にすでにあるということであり、前述した町田市の地区や神戸市の鶴甲団地だけが特別に高齢化が進んでいるわけではないのです。これには、高度経済成長期に大量に建てられた住宅は、当時、働き盛りの世代が購入した場合が多く、現在も引き続き、そのまま居住しているケースが多いことが関係しています。
新耐震基準を満たしていない老いた住宅は、解体・除却をして建て替えをするか、あるいは、若い世代のニーズに合わせて、耐震改修を伴うリノベーションをするなど、現代のニーズにあった良質な住宅へとよみがえらせることができれば、将来世代にツケを残さず、安心して引き継いでいけます。しかし、こうした対応ができなければ、居住者の死亡後に誰に引き継がれることなく、空き家となる可能性が高いため、老いた住宅は、放置・放棄化する空き家予備軍ともいえるのです。
2025年頃、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となり、その割合が20%近くに膨れ上がります。そして、日本人の男女の平均寿命が84歳(2015年世界保健機関発表)ですので、2035年頃には、団塊の世代の死亡数が一気に増えると予想されます。居住者の死後、その住宅を相続した人が引き続き居住せず、賃貸、売却をしない・できない場合、相続人がそのまま放置してしまうケースも多いため、「その他空き家」がどんどん増えていくわけです。
もし、「その他空き家」の管理が適切に行われない場合、建物の劣化が進み、地震や台風などによる倒壊で通行人や周辺の住宅に危害を及ぼしたり、ネズミなどの動物が棲みついたり、生い茂った雑草などにより害虫が繁殖するなど、不衛生な環境になってしまいます。こうして放置された空き家は、放火の標的になったり、不審者のたまり場となるなど治安が悪化し、周辺の不動産価格の低下を招くなど、まち全体に影響します。
そして、まちの住環境の悪化がおまりにも深刻になると、将来、多額の税金を投入してそれを改善して行かざるを得ない事態も生まれかねません。これまでには想定していなかったような新たな社会的コストが必要になってくる可能性があります。
住宅地の行く末は、団塊世代の死後、相続する子供世代(団塊ジュニア)や親族が実家をどのように取り扱うかにかかっているといっても過言ではないのです。

 

急増する実家の相続放棄と「負動産」

団塊世代の地方にある実家や、団塊ジュニア世代の地方や大都市郊外にある実家を相続する時期となり始めています。特に「その他空き家」は、住む予定のない実家の相続のタイミングで増えて行く可能性が高いのです。
親の死後に残されるのは、プラスとなる遺産だけではなく、住宅の質や立地によっては、売りたくても買い手がつかない「負の遺産」となるケースがすでに続出しており、前述したように、「負動産」と揶揄されることもあるくらいです。
思い出のたくさん残る実家を相続して、とりあえず空き家のまま置いておく場合も多いのですが、固定資産税などの税金、老朽化した建物等の修理費や雑草の伐採などの空き家の維持管理費といった金銭負担だけでなく、ご近所に迷惑をかけていないだろうか?といった精神的負担も大きくなります。
そのため、近年、住む予定がない実家の相続を放棄するケースが急増しています。相続放棄とは文字通り、全ての財産を相続しないことです。司法統計によると、相続放棄の申立件数はここ20年間で3倍にまで膨れあがっています。
この背景には、就職などで都会に出ている人が地元に帰らない・帰れないことから実家の維持管理ができない、固定資産税の負担を避けたい、売れない「負動産」を引き継ぎたくない、最終的に必要な空き家の解体費用を負担したくないといったことがあります。
では、所有者の死亡により空き家になってしまった実家が相続放棄された場合、誰が管理責任を負うのでしょうか?
相続放棄をした場合、相続財産に権利を持たないのだから、その財産の管理責任からも解放されると思いがちです。しかし、民法940条に定められているとおり、実家などの相続放棄をしたとしても、家庭裁判所によって相続財産管理人(弁護士や司法書士など)が正式に選任され、実家の管理を開始するまでは、適切な管理を継続しなければならないのです(もし相続放棄した空き家において、何か事故があれば法的責任を追及される可能性もあるのです)。ただ、相続財産管理人の選任申し立てには、数十万円もの予納金を負担しなくてはいけないため、実際には相続財産管理人が選任されずに放置されてしまうことも多いのです。
今後も相続放棄が増加していく可能性が高いことから、これまでの家が有力な資産だった時代には想定されなかった新たな事態に対応できるよう、相続放棄された建物の管理や処分について、形式的すぎる(無意味な?)手続きを簡略化して円滑な対応が可能となるよう、法制度の整備や仕組みづくりが急務なのです。

 


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