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「老いる家 崩れる街(タワマン編3節抜書) ー 野澤千絵」老いる家 崩れる街 住宅過剰社会の末路 講談社現代新書

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「老いる家 崩れる街(タワマン編3節抜書) ー 野澤千絵」老いる家 崩れる街 住宅過剰社会の末路 講談社現代新書


「空中族」の増加


超高層マンションの人気が高いのは、眺望が良い、ステイタス感が高いといった点だけでなく、「コンシェルジュやスパなどのサービスが充実していてホテルライクな暮らしができる」「駅に直結している」「職場に近い」「マンション内にスーパーやクリニックが入っている」といったように、居住環境としての利便性があると考えられているからです。
また、「東京オリンピックパラリンピックによって資産価値が上がるのではないか」「相続税対策として有利になるのではないか」という期待感、さらには、外国人が日本の不動産への投資意欲を高めているといった不動産投資としてのメリットがあるからとも考えられています。
超高層マンションを投資の対象としている購入者は、今後、物件価格が上昇する可能性を見込んで、今は自分では住まずに人に貸しておき、2020年の東京オリンピックパラリンピックの前に最も高値で売却しようと考えている人が多いと言われています。
実際に、あるNHKの番組によると、超高層マンションの高級物件の購入と転売を繰り返し、より高級な物件に住みかえる「空中族」と呼ばれる人たちが増えていることが指摘されています。
超高層マンション相続税対策になる理由として、低層階でも高層階でも、面積当たりの相続税評価額は一律に評価されているために、高層階や眺望がよい住戸は、実勢価格に比較して相続税評価額が低くなり、節税対策になると言われています(あまりにも相続税の節税対策で購入する動きが多くあることから、現在、相続税の見直しについて検討がなされており、早ければ2018年1月から実施される見通しです)。
デベロッパー側も、分譲形態にすると、賃貸にする場合に比べて短い期間で土地取得費や建設費などの初期投資が回収できる、住宅を引き渡した後の維持管理の主体・責任は購入者側に移るために将来的なリスクを回避できるなど、メリットが大きいのです。
そのため、「売れるから建てる」という流れが加速するのです。

 

資産価値の下落と管理不全状態

もちろん、非常事態になることは極めて稀だから、こうした災害時のリスクを認識したうえで購入すればよいという考え方もあります。「大手企業関連の管理会社がいるし、今は問題なさそうだから安心だ」とも考えられがちです。しかし、分譲マンションは、どのような区分所有者がいるのか、区分所有者による管理組合にどのような意識・能力があるかによって、将来性にわたって建物の維持管理が適正に行われるかどうかが未知数という、極めて不安定な仕組みで成り立っていることも認識しておく必要があります。
超高層マンションについては、一般のマンションに比べて、建物の上層階、中層階、下層階で、購入する所得階層が分かれていたり、世代・家族構成が多様なため、管理組合が、様々な事情を抱えた区分所有者同士の合意形成を行い、将来にわたってマンションの維持管理を行うことが果たしてできるのか、専門家の間でも疑問視する声が多いのです。そして、マンションの維持管理を管理会社に丸投げすると、ずさんな管理や場当たり的な修繕をされたり、新築時に分譲会社が設定した修繕積立金だけでは大規模修繕ができなくなると、資産価値が大幅に下落したり、最悪の場合、管理不全状態に陥る危険性さえ懸念されています。
もし、超高層マンション1棟全てが賃貸住宅の場合には、所有者は企業等であることが多いため、事業者が自分たちの資産価値の維持や収益確保を目的として、建物等の維持管理をきちんと行う場合が多く、たとえ複数の企業間の合意形成が必要な場合でも、住民同士の場合に比べると、ハードルはそこまで高くない場合が多いでしょう。
しかし、分譲の超高層マンションでは、1棟500~1500戸もの住戸数があることから、区分所有者が大量にいるというだけでなく、居住用か投資用かといった取得目的や区分所有者の所得階層・世代・家族構成・国籍が多様であるが故に、合意形成が極めて難しくなってしまうのです。
特に、大規模修繕等で修繕積立金が不足したり、災害などで突発的に修繕が必要となった場合、修繕すべき内容や各住戸が支出すべき金額について合意形成ができないと、一気に管理不全状態に陥り、不良ストック化の道をたどる危険性も考えられるのです。
加えて、最終的に超高層マンションの寿命が尽きた時に、区分所有権を解消して解体するという合意形成ができるのか、その際の解体費用は捻出できるのかなど、一般的なマンションですら解決できていない分譲マンションの終末期問題が、超高層ではさらに大きくなってどうしようもなくなることも懸念されています。

 

住民同士の希薄な関係性

分譲マンションは、購入者である区分所有者全員で構成される管理組合が、廊下やエレベーター、配管などの共有部分(占有部分以外の全て)の維持管理や補修だけでなく、将来にわたって使えるようにするための大規模修繕を行うこととなります。
区分所有者は、管理規約などを守り、管理費や修繕積立金をきちんと支払うだけでなく、区分所有法に基づき全員が管理組合員となるため、総会の決議に加わる「権利」を得るだけでなく、マンションの共有部分の維持管理を行うという「義務」が生じます。分譲マンションを購入したら、自分は関わりたくないと思っても、管理組合から脱退することはできません。もし、マンションを購入した区分所有者自身が居住せずに賃貸住宅にした場合でも、区分所有者が共有部分の維持管理をする義務に変わりはないのです。
万が一、マンションの維持管理などで何らかの問題が発生した際には、管理組合の理事会は、区分所有法に基づいて総会を開き、一定数以上の区分所有者等の賛成を得て決議を成立させなくてはいけません。そのため、管理組合の理事会メンバーとなった区分所有者は、管理会社のサポートがあるとはいえ、管理組合の義務に時間と労力を割く必要があります。こうした管理組合の活動は、結局のところ、数人の居住者(区分所有者)のボランティア精神に頼らざるを得ないのです。今後、入居者の超高齢化や多国籍化が進んでいくと、合意形成というハードルだけでなく、管理組合の担い手不足が深刻化することも懸念されています。
分譲マンションという「共同住宅」に住むということは、建物全体の区分所有者との「運命共同体」に加わるということです。分譲マンションの資産価値は、戸建て住宅以上に、居住者によって形成されるコミュニティの状況に大きく左右されるというリスクを踏まえることが重要なのです。
しかし実際のところ、超高層マンションの購入者には、ホテルライクな暮らしを買っているという意識が根強く、住民同士の関係性が希薄で、管理組合のような面倒なことには関わりたくない、あるいはマンションの維持管理などには無関心を決め込むという居住者が多いのが現状です。
適切な維持管理は全ての区分所有者が管理費を支払ってこそ成り立つものですが、実際に、総戸数が多い大規模なマンションほど、管理費を滞納している住戸割合が高くなっており、500戸を超えるような大規模なマンションの5棟に1棟で、滞納住戸が総戸数のうち10%超もあることが明らかになっています。
また、自分が居住するために購入した場合でも、ひとり暮らしの区分所有者が死亡した後、相続人がわからない、あるいは相続人がいないために、管理費が徴収できないといった問題も懸念されます。
特に、超高層マンションでは、値下がりしにくい、税金対策なるといった理由により、投資用として購入している層も多くなっており、新築当時からすでに居住していない空き住戸や賃貸にしている住戸が含まれているケースも多くなっています。
投資用に買った人にとっては、オリンピック前に高値で売り抜けようといったマネーゲームの対象でしかないため、将来にわたって住み続けられるように資産を維持・向上させようという考えは希薄な場合もあります。そのため、将来、投資価値が低下した場合など、管理費を滞納する区分所有者の比率が多くなってしまう危険性もはらんでいます。
超高層マンションの不良ストック化問題で、最も深刻な影響を受けるのは、投資用で儲けようとしている区分所有者ではなく、数十年もの住宅ローンを組んで住戸を購入し、日々、生活を営んでいる居住者です。こうした人たちが、自分たちの日々の生活を守ろうと管理組合で奮闘するだけでは、合意形成のハードルが高すぎて、限界があります。
そのため、少なくとも超高層あの売買にあたっては、重要事項として購入後に想定される様々なリスクについて、売り主から購入者への詳細な情報提供を事前に義務付けるなどの取り組みは必要不可欠だと言えます。
このように、分譲の超高層マンションが良好なストックとなるための維持管理を行っていくには、一般のマンションよりもかなりハードルが高く、現行の区分所有法や管理組合の仕組みだけでは立ち行かなくなるのです。この問題について、住宅・建設業界も国も十分に認識しているはずですが、見て見ぬふりを決めこんでいるのか、瑕疵担保責任などの法律で定められた問題以外は区分所有者が解決すべきだと考え、購入者に多大なリスクを負わせたまま、今も超高層マンションはつくり続けられるのです。


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