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「行政法 行政上の強制徴収と訴訟による請求との関係 - 京都大学教授 原田大樹」法学教室 2024年5月号

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行政法 行政上の強制徴収と訴訟による請求との関係 - 京都大学教授 原田大樹」法学教室 2024年5月号

東京地裁令和4年6月5日判決

■論点
行政上の強制徴収が法定されている場合の訴訟による支払請求の可否。
〔参照条文〕国健保80条、自治231条の3第3項

【事件の概要】
国民健康保険組合であるXは、その元組合員Yに対し、保険料の滞納分及びXの規約に基づく確定延滞金・督促手数料・約定延滞金の支払を求めて給付訴訟を提起した。

【判旨】
〈訴え却下〉 ①「組合は、組合員から保険料(国保法76条2項)を徴収するに際しては、滞納した者に対して督促状により期限を指定して督促することを要し(国保法79条1項、2項)、その督促を受けた者が指定された期限までにこれを完納しないときは、これに関する保険料その他の国保法の規定による徴収金(以下「保険料等」という)について、都道府県知事の認可を受けて地方税の滞納処分の例によって自ら処分し、又は納税義務者の住所地若しくはその財産の所在地の市町村に対しその処分を請求することができることとされており(国保法80条1項、2項、地方自治法231条の3第3項前段)、これらの処分によって徴収した保険料等の先取特権の順位は、国税及び地方税に次ぐものとされる(国保法80条4項)。このように、保険料等の徴収について、法律上、特別の便宜が与えられているのは、組合員及び組合員の世帯に属する被保険者の国民健康保険を行うという組合の事業の公共性に鑑み、その事業遂行上必要な財源を確保するためには、組合が組合員から収納する保険料等につき、租税に準ずる簡易迅速な行政上の強制徴収の手段によらしめることが、最も適切かつ妥当であるからにほかならない。そうであれば、組合が、法律上、保険料等の徴収について、特に上記のような独自の強制徴収の手段を与えられながら、この手段によることなく、一般私法上の債権と同様に訴えを提起し、民事執行法上の強制執行の手段によって債権の実現を図ることは、上記の国保法の関連規定の趣旨に反し、公共性の強い組合の権能行使の適正を欠くものとして、許されないところといわなければならない(最高裁昭和38年、同41年2月23日大法廷判決)。」「そうすると、原告が本件滞納保険料等の支払を求めて給付訴訟を提起するについては、訴えの利益がないといわざるを得ず、本件訴えは不適法なものであって、その不備を補正することができないものといえる。」
②「原告において、訴えの提起を契機として、滞納者との間で早期に和解を成立させることを意図して本件訴えを提起しており、過去にも、同種の事案において、滞納者に対する保険料等の給付訴訟を提起し、これらを契機として早期に和解を成立させて滞納者から保険料等の支払を受けていた経験を有していたとしても、訴えの適法性に関する上記の結論を左右するものではない。」

 

【解説】
1 本判決が引用する最大判昭和41・2・23はいわゆる「バイパス理論」で知られる。同判決は農業共済組合連合会がその構成員である農業共済組合の手で徴収できていない組合員の共済掛金・賦課金を民事上の強制執行によって徴収しようとした事案であった。最高裁は、農業共済組合に行政上の強制徴収の手段が認められていることを根拠として、民事上の強制手段を用いることは「公共性の強い農業共済組合の権能行使の適正を欠く」とした。本判決の判旨①は、この考え方をそのまま国民健康保険組合に当てはめたものである。
2 もっとも、昭和41年判決は強制執行の可否に関する判断を示したに過ぎず、「給付訴訟についても、いかなる場合にも全くこれを認めないとする趣旨を示したものとまではいい切れない」。本判決②は、この点に関してその射程を幅広く捉え、給付訴訟の目的が強制徴収の実現でなくても訴えを不適法とする立場をとった。しかし、これと同種の事案である東京地判令和5・3・2は、国民健康保険法の滞納保険料を徴収する権利が時効により2年で消滅し、組合による督促状の発出でその更新が可能であるものの、やはりその後2年で時効により消滅すること、しかし裁判上の請求によって消滅時効の完成が猶予され、徴収する権利が確定判決で確定されれば消滅時効が10年になることを挙げ、「原告が滞納保険料、約定延滞金及び督促手数料の徴収につき、租税に準ずる簡易迅速な行政上の強制徴収の手段を有するとしても(国民健康保険法80条)」、このことにより、原告の本件訴えについて、訴えの利益が欠けることにはならないというべきである」とした。短期保険としての性格を有する医療保険においては、消滅時効が2年と短く(国健法110条1項等)、また時効が中断されていないときはそれ以前の時効完成分の保険料は保険給付額から控除されない。そこで、和解による解決目的ではなく時効の延長を目的とする訴訟の必要性は、他の法領域の同種の賦課金と比較して大きいとも言える。昭和41年判決の射程が今改めて問われている。


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