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「ワーキングメモリとは何か - 澤田誠」思い出せない脳 講談社現代新書 から

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「ワーキングメモリとは何か - 澤田誠」思い出せない脳 講談社現代新書 から

 

記憶のトピックスの中でよく取り上げられる話題が「ワーキングメモリ」です。日本語では作業記憶と呼ばれます。その名のとおり、作業に必要な情報を、ごく短時間の間だけ記憶する脳の機能です。広告などで見た電話番号を覚えて、電話を掛けることができるのはワーキングメモリの働きのおかげです。
ワーキングメモリは特に意識して覚えようとしない限り、10~15秒程度で消滅しますので、短期記憶に分類されます。しかし、短期記憶にもかかわらず、ワーキングメモリを担当しているのは海馬ではなく大脳新皮質の「前頭前野」という部分です。そのほかの複数の部位も関わっていることが分かっていますが、まだ詳しいメカニズムの解明には至っていません。記憶と保管の流れと一緒にしてしまうと分かりにくくなってしまうので、第1章では説明しませんでした。
ワーキングメモリは作業台です。しかも作業台の大きさは限られています。ワーキングメモリが一度に処理できる情報は4個程度。たまに7個以上処理できる超人もいるようですが、普通の人はあまり欲張ったことはできません。たくさんのことを並行してできているという人も、その実態は、単に毎回毎回、脳の中で素早く切り替えているだけの可能性が高いでしょう。
つまり、作業台に1つを広げて作業していたのに、別のことをやるためにそれらを作業台の下に急いで落として次のをやって、また別のをやるために作業台から落として・・・と、これが、いわゆる「マルチタスク」の正体です。マルチタスクは、適度な負荷の場合は脳を鍛える効果もありますが、常にマルチタスク状態でいると脳を疲れさせ、作業自体も効率が悪くなってしまいます。

認知症になると、ワーキングメモリも衰えます。複数のことを同時に行うことができなくなるため、これまでできていた料理も苦手になります。認知症の診断ツール「長谷川式認知症スケール」の中には、100から7を順番に引いていくテストがありますが、頭の中で数字を一定時間覚えておかないと、このような計算ができません。ワーキングメモリが障害されているかどうかのテストになります。
同じことを何度も言ってしまうのも、認知症の初期症状の特徴です。人が話をしている内容を聞き取って意味を理解したり、物事を順序立てて考えたりできるのはワーキングメモリのおかげです。当然、話をする側にもワーキングメモリが必要になります。ワーキングメモリが働かなかったら、話をしているうちに、最初の方で話したことを忘れてしまい、何を言いたいのか分からなくなってしまうのです。
ちなみに、ワーキングメモリに重要だと考えられている脳部位の前頭前野は、アルコールによって働きが弱くなってしまうため、酔っ払いの話は何を言いたいのか分からない場合が多くなります。
ワーキングメモリが重要なのは、同時に複数の作業をするときだけではありません。情報の関連性を見つけ、そこから別の情報にアクセスするときにも役立っています。これは起きているときは、記憶を引き出し、状況にあった判断をするときに役立ちます。
また、眠っている間は記憶の形成に役立っています。第3章で睡眠中に記憶が作られるメカニズムを説明しますが、そのときに古い記憶と新しい記憶を比較して選別する作業を行うのが、このワーキングメモリなのです。
ビジネスや勉強に必要なワーキングメモリは、よく脳トレサプリメントのターゲットになります。ワーキングメモリを訓練やサプリによって鍛えられるかどうかは、まだはっきりとした結論は出ていません。また、序章で書いたように、鍛えられているのが手続き記憶だったとしたら、その脳トレが上手くなるだけで、他の場面に応用が利きません。
もし、脳のパフォーマンスを上げたいと考えるなら、昼も夜も精一杯働いている脳をさらにびしばし鍛えるよりは、脳が働きやすい環境を作ってあげたほうがいいかもしれません。たとえは、スマホの通知を切るなどして注意が散るものを片付ける、一度に複数のことを行わない、保留中の思考をメモに書き出してワーキングメモリのスペースを空けるなどです。
脳は、筋肉のように、鍛えたら鍛えた分だけ肥大する臓器ではありません。安易な謳い文句に乗らず、不要なマルチタスクを減らし、脳に優しい生活を送ってください。

 


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