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「江戸の山水 - 中村良夫」風景学入門 中公新書 から

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「江戸の山水 - 中村良夫」風景学入門 中公新書 から

 

この崖線は、赤羽あたりから、蜿蜒、多摩川河口へのびる武蔵野台地の東縁で、地形学上は関東ローム層におおわれた下末吉面から新しい沖積層へと落ちる段丘である。この段丘沿いに、というより、いまでは国鉄京浜東北線沿いに、北から南へ、王子飛鳥山の桜と音無川の清流、根津の里、上野寛永寺不忍池江戸城霞ヶ関愛宕山あたりからの江戸湾眺望、芝増上寺山内の芙蓉洲弁天社の佳境、品川御殿山の海と花と、江戸有数の山水名所が点綴の妙を極めていた。
大江戸を串刺しにするこの「山里構造線」から、さらに北西に向けて幾本もの開析谷が台地深く枝状に食い込んで、迷路のような地形の一大建築をつくり上げている。そうして台地上の僅かな高みと森、沖積低地に島状に孤立した丘があれば、これをいとおしみつつ山と見立てて、山と名づけられた。数多くの地形地名に往時の風景が記憶されている。それにまた、舌状にはり出した段丘を谷の底から仰ぎ見れば、そこにれっきとした一つの山容をみとめる楽しみもあった。湯島の天神、赤坂の日枝神社氷川神社、芝の西久保八幡宮などは、みな、こうした山宮見立ての見晴しのよい閑静な立地で、なかでも海に近い愛宕神社は江戸屈指の眺望を誇っていた。『江戸名所図会』にいう。
「抑[そもそも]当山は懸岸壁立して空を凌ぎ、六十四級の石階は、畳々として雲を挿むが如く聳然たり。山頂は松柏鬱茂し、夏日といへどもここに登れば、涼風凛々としてさながら炎暑をわする。見落せば三条九階の万戸千門は、甍をつらねて所せく、海水は★焉とひらけて、千里の風光を貯へ、最美景の地なり」
甍をつらねて所せき江戸市街にとりこまれた名山。山水は座辺にあり、である。


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