(巻三十三)夏帽子替へて遊ぶ日働く日(安原春峰)
7月14日木曜日
明け方毛布を手繰りよせた。雨が降ったり止んだりの天気たが今日も涼しくて助かる。
細君は生協へ出かけ、私は洗濯物を干す。カラッと洗濯物が乾く天気ではないが出さないよりはましだろう。戻ってきた細君が云うにセロテープが欠品だそうだ。私も買い物リストに載せてあるので生協に入れば確認していたが、欠品御詫びが貼り出されたということは補充の見込みがないのかな?ネットでセロテープ事情を探ってみたが買いだめ風評はいまのところ見当たらない。
なぜテープを買い求めるかというと、備忘メモを要所要所に貼り付けて措くためだ。“トイレの消灯”、“トースターの電源オフ”、“クリーニング引取”とか“火曜日歯科”とか、とにかく物忘れ対策でメモがそこいらにベタベタと貼ってある。セロテープはその備忘メモを貼るのに必需なのだ。
夏まつり神社に妻を忘れけり(小関新)
ふと忘れ物と物忘れの違いを思う。忘れ物が若年で物忘れが老年か。
昼頃本降りになり、急ぎ洗濯を取り込んだ。次いでゴミ集積場所へ燃えるゴミを出しに行く。十メートルほどだが気持ちのよく雨に打たれた。
どうせなら思う存分降ってくれあるんだたまに濡れたい気分(西之原正明)
昼寝して起きてもまだ雨が降っていて外出せず。4時にラジオから相撲の触れ太鼓が流れて細君が“何かホッとするわね”と呟く。
図書館からは4冊貸出可能との通知をいただいているが、外出しないので手元の不当たりを捲る。そのうちの1冊
『日本の名随筆別巻82演歌』の中の
「冬眠日記[抄] - 大岡昇平」
を読んでみた。大岡昇平のニュー・ミュージック論とは意外。
《中島みゆき悪くなし。「時代」「店の名はライフ」など、唱いぶり多彩、ひと味違った面白さあり。詞の誇張したところは抑えて唱い、平凡なところは声をはる。歌謡曲とは逆になっているところがみそか。もっともニュー・ミュージックは七八年がピークにて、いまは歌謡曲とあまりかわらなくなりつつありとね説あり。しかしアリスの年間収入五十五億円、来年は地方に演奏会場を持つとのうわさありとは驚いた。
知らない客にドーナツ盤をきかせて、暮から得意になっていたが、新しがり屋の埴谷雄高だけは、中島みゆきのヒット曲「わかれうた」の題名まで知っていた。しかし高石友也、岡林信康など、フォーク以来の系譜を扱った富沢一誠『ニュー・ミュージックの衝撃』(共同通信社)は知らず、抑えてやった。》
この随筆(日記抄)の中にユーミンが出て来ない。
《このうちクリスタル・キングと久保田早紀がテレビへ出るから、歌謡曲と見なせる。南沙織が引退してから、歌謡曲番組見たことなけれども、ニュー・ミュージックで、少し聞く気になった。ドーナツ盤買わされている。》
と結んでいる。爺さんは南沙織だったのか?
願い事-電球が切れるが如くで細君より先にお願い致します。怖くない、怖くない。
音のして電球きれし花の冷え(麻田すみえ)
句帳を捲ったらこの句が書き留めてあった。そう、音がしていた。思い出した。
図らずも泣いて出てきた道化の世すまぬすまぬと生きたくもなし(辞世)
諦念というのに憧れる。