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「商法 デッドロック状態の株式会社における解散の訴え - 東北大学准教授石川真衣」法学教室 2024年 3月号

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「商法 デッドロック状態の株式会社における解散の訴え - 東北大学准教授石川真衣」法学教室 2024年 3月号

東京高裁令和5年3月9日判決

■論点
株主間の不和による会社の意思決定の不能会社法833条1項に定める解散事由にあたるか。
〔参照条文〕会社法833条1項

【事件の概要】
株主会社X社が製造する電気製品の販売事業のみを営む株式会社Y社は、株主をA及びX社のみとする会社であり、A及びX社はそれぞれY社の発行済株式総数及び議決権の各半数を有していた。Y社は、X社の九州エリアでの業務拡大のため昭和58年に設立されていたが、Y社の代表取締役Aは、Y社の定款に記載のないアグリビジネスをY社の事業として展開するための研究・調査を平成22年頃から開始していた。しかし、アグリビジネス関連製品の販売には至らず、平成30年以降、Y社の売上高は減少していた。売上高の減少の原因がAがアグリビジネスに力を入れてY社がX社製品の営業活動を積極的に行わなくなったことにあると考えたX社は、Y社に対して専属代理店契約の解消を申し入れ、X社への営業権利の伴う覚書に基づきX社からY社に対して対価が支払われることとされていたが、紛争状態に陥りX社による支払が停止されたため、Y社は対価の支払を求める別訴を提起していた。その後、X社は、会社解散の訴え(会社833条1項)を提起し、原審(東京地立川支判4・9・9)はX社の請求を認容したため、Y社が控訴した。
【判旨】
〈控訴棄却〉
(1) 会社法833条1項1号の解散要件について
「AとX社は、Y社の発行済株式総数の各半数を保有しているところ、Y社がこれまで唯一の事業であったX社製造に係る製品の販売事業の代わりに、定款を変更して新たにアグリビジネスを目的事業としてこれを推進すべきか、直ちに解散して清算すべきかを巡り、AとX社の意見が対立して膠着状態に陥っており・・・この膠着状態が容易に解消されることは見込めないというべきであって、Y社において多数決原理に基づく重要事項の意思決定が不可能となっている」。
「これまで唯一の事業であったX社製造に係る製品の販売事業については・・・これを継続することができず・・・、アグリビジネスについても、AとX社の意見の対立から、定款を変更するなどしてこれを推進することが困難な状況にあって・・・、現に営むべき事業がない状態にあり、令和2年8月期以降、売上げを得られず、主たる資産で同期末に約7513万円あった預金を1事業年度当たり約1000万円ずつ減少させている」。
「Y社は『業務の執行において著しく困難な状況に至』っており、これによってY社に『回復することができない損害が生じ、又は生ずるおそれがある』ものと認めるのが相当であって、Y社には会社法833条1項1号の解散要件が認められる。」
(2) 会社法833条1項の「やむを得ない事由」について
「Y社は業務継続が困難な状態にあるところ、・・・X社が保有するY社株式をY社その他第三者に譲渡することは困難であると認められ、Y社の資産に対するX社の株主としての正当な権利を保護するためには、Y社を解散して清算を受けるほかないというべきであるから、会社法833条1項に規定する『やむを得ない事由』があると認めるのが相当である。」
【解説】
▲1 本件は、株主2名の株主会社において会社法833条1項1号に基づく解散請求が認容された事案である。1号事由の「業務の執行において著しく困難な状況」の典型例とされるのは、2名または二派に分かれる株主が発行済株主・議決権の各半数を保有している状況において株主間の対立が生じ、取締役の選任決議が成立せず業務執行を行うことができない場合である(東京地判平成28・2・1)。本件においては、同数の議決権を有する株主2名が対立し膠着状態にあったものの、代表取締役Aによる業務執行は一応継続していたとも考えられる状況でなされた解散請求について、1号事由が認められた点が注目される。
▲2 大阪高判令和4・3・24は、「業務の執行において著しく困難な状況」について、株主間のデッドロック状態の発生、更には一方の株主により他方の株主の意向に反する業務執行が行われ、他方の株主においてその意向が反映されないままという状態が継続しているだけでは足りないとしたが、必ずもはっきりしないものの、本判決はデッドロックにより生じた「現に営むべき事業がない状態」を含めて「業務の執行において著しく困難な状況」を認めているように読める。アグリビジネスを事業目的に含める定款変更議案の否決に照らしても、Y社が定款所定の事業目的を達成する見込みはほぼないと言えよう(事業目的の達成の不能のおそれに言及して1号事由を認めた例として、東京高判平成12・2・23)。
▲3 「業務の執行において著しく困難な状況」との因果関係が要求される1号の回復不可能な損害またはそのおそれについては、典型的には会社の倒産状態または債務超過状態が想定されるところ、Y社には債権者はおらず、債権者の利益保護を考慮する必要がない。Y社の主たる資産である預金の大幅な減少の継続及び将来の売上げの見込みがないことを踏まえ、1号事由の充足は比較的緩やかに認められたものとみられる。
▲4 解散請求の認容には、1号事由の充足に加えて、「やむを得ない事由」が必要である。本判決は、解散による「社会的損失を回避する必要性」の考慮に言及した原審と異なり、「やむを得ない事由」とは会社を解散する以外に株主の正当な利益を保護する方法がない場合をいうとする従来の裁判例・学説の立場を踏襲している。金額の開きを理由にX社保有株式の処理に関する和解は不成立となったが、二人会社のデッドロックの事案で1号事由が充足される以上、やむを得ない事由の存在を肯定したことは妥当であろう。

 


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