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「ルール違反を減らすには - 川出敏裕」法学教室 2024年3月号

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「ルール違反を減らすには - 川出敏裕」法学教室 2024年3月号

 

先日、通勤のバス内で、「自転車も乗れば車の仲間入り」という標語とともに、自転車の利用者に交通ルールを守るよう呼びかける車内アナウンスが流れていた。自転車は、道路交通法上、「軽車両」と位置づけられており、自動車やバイクなどと共に「車両」に属している。しかし、こうしたアナウンスが流されることがまさに示しているように、自動車の利用者には、自分が車を運転しついるという意識は薄いように思われる。例えば、自動車は車道を通行するのが原則であるが、現実はそうなっていないことは、誰の目にも明らかであろう。
自転車が歩行者にとって危険な存在であるという認識が欠けていると考えざるをえない運転も往々にして見られる。歩道を高速で走るフードデリバリーサービスの自転車に身の危険を感じた読者は少なくないのではないかと思う。また、自転車の交通違反は、対自動車の関係でも事故を生じさせる原因となるものであり、実際にも、近年、交通事故全体の件数が減少傾向にある中で、自転車が関与した事故が占める割合は一貫して増加している。
こうした状況を受けて、警察も、悪質・危険な交通違反に対しては積極的な取締りを行う方針を決め、自転車の交通違反の検挙件数は近年飛躍的に増加している。もっとも、自転車の交通違反には交通反則通告制度は適用されず、すべての事件が通常の刑事手続により処理されることもあって、実際に起訴がなされ、刑罰が科される事例は限られている。
取締りを行うこと自体にも違反の抑止効果は認められるとはいえ、制裁が科される割合がわずかというのは、違反に対する責任追及として不十分であるうえに、手続に要するコストとの関係でバランスを欠くといわざるをえないであろう。そこで、警察庁に置かれた「良好な自転車交通秩序を実現させるための方策に関する有識者検討会」は、本年2月に報告書を公表し、その中で、自転車の交通違反にも交通反則通告制度の適用対象を拡大すべきとする提言を行った。実際に反則金が課されるのは、運用上、悪質・危険な違反に限定されることになろうが、そうであっても、制裁を科される範囲が拡大することは、違反の抑止に一定の効果をもたらすであろう。
ただ、前述のとおり、現在の自転車による交通違反は、運転者に、自転車は車であって、原則として車に対する交通ルールが適用されるという意識が薄いことによって生じている面がある。加えて、自転車に特有の例外など、ルールの内容がわかりにくいという問題もある。これを解決するためには、ライフステージに応じた、効果的な自転車に係る交通安全教育を行うことが必要であり、この点につき、報告書では、官民連携の協議会を設けて、自転車の安全教育ガイドラインを作成することを提言している。
この2つの方策により、悪質な違反や、自転車の交通ルールを知らないことによる違反が減少することが期待できる。他方で、いくら交通ルールを認知させ、その違反に対する制裁を科すことにしたとしても、それが守ることが難しい環境であれば、ルール違反を防止することはできない。自転車の歩道通行がいっこうに減らないのは、この最たる例である。車道の自転車レーンに駐停車された自動車を避けるために、歩道に入らざるをえない経験をした方は少なくないどあろう。こうした違法駐車を積極的に取り締まることはもちろん必要であるが、それに加えて、本来的には、自転車専用道路を拡大するなどの道路環境の整備が不可欠である。報告書では、この観点からの提言も行われている。
多くの国民が関わるようなルールについて違反が絶えないのには、それなりの理由があるはずであり、単に制裁を科すだけでは、それをなくすことはできない。その原因を明らかにしたうえで、対策をパッケージとして考えていく必要がある。自転車の交通違反は、それを考えるための格好の素材であるように思う。

 


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