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「元素とは何か - 編者 桜井弘」元素118の新知識第2版 BLUE BACKSから

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「元素とは何か - 編者 桜井弘」元素118の新知識第2版 BLUE BACKSから

 

現代文明が高度に進歩し、それにともなってさまざまな考え方が花開く時代になればなるほど、われわれは自らを考える機会を失ってきているように思われる。現代という時代に囚われたわれわれを見て、ジャイアン族(アメリカ先住民)の古老が「あなたたちはなぜ“たましい”のことを話さないのか。それがとてもふしぎだ。あなたたちは“たましい”というものをもっていないのか・・・」といったそうである。
地球上の人間はすべて同じ肉体、同じ物質、そして同じ元素からできているのに、つまり、人間を化学的に分割していけば、すべて同じ元素からつくられているのに、なぜわれわれには“たましい”が宿っているようには見えないのだろうか。人間から元素への理解はできても、元素から人間、そして精神への理解はきわめて難しいように見える。物質・肉体と精神の関係については古来、多くの識者・賢人が語り続けてきたが、いまだ謎は残されたままだ。
宇宙、地球、環境、動物、植物、そして人間が、すべて特定の元素またはそれらの組み合わせからつくられていることは、現代ではすべての人が疑うことなく受け入れることのできる物質観(物質に対するきわめて大切な考え方)である。しかし、この考え方が確立され、そして一般に受け入れられるようになるまでに、人類は約5000年もの歳月を費やしてきた。
人類が“火”を手に入れ、木を燃やした炭(木炭=還元剤)が偶然に焚き火のまわりの岩石から「金」をもたらした発見の感動が、この物質観を生み出す最初のステップとなった。人類が「金」に続いて「青銅」を、そして「鉄」を手に入れる歴史の流れの中で、紀元前のギリシャ人たちは「物質とは何か?」を本格的に考えるようになった。
物質観はその後、エジプトを経て、9~10世紀になるとアラビア半島で、価値の低い金属(卑金属)を価値の高い金属(貴金属)に変えようとする錬金術が興り、現代の実験的化学の原形を準備することとなる。錬金術は所期の目標(成果)を達成することはできなかったが、化学的なものの考え方や技術は、中世のヨーロッパに引き継がれた。1669年、ドイツの錬金術師であり化学者でもあったブラントは、人の尿から新元素・リンを発見した。
古代から中世の時代までに知られていた元素は、金、銀、銅、鉄、鉛、スズ、水銀、亜鉛ビスマス、炭素、硫黄、アンチモン、そしてヒ素の13元素であったが、これらはすべて、自然元素、あるいは鉱物として人々が手に取り、目で見ることのできる存在であった。ブラントは、日常的には見ることのできない元素を見える形で取り出すことに成功した、人類史上最初の錬金術師・化学者であった。ブラントによるリンの発見は、自然界や生体中に元素が“見えない形”で存在していることを示すとともに、それらから新しい元素を発見できる可能性の扉を開けることとなった。
18世紀になると、キャヴェンディッシュ、プリーストリー、ラザフォード、シェーレらが、空気中から気体元素を発見し、実験化学の重要性を示した。スウェーデンのアルフェドソンは、鉱物界から初めてとなるアルカリ金属元素・リチウムを発見し、19世紀の新元素発見ラッシュへの道を拓くこととなった。このような背景のもとで、物質を体系化しようとする試みに乗り出したのは、イギリスのボイルであった。ボイルに始まり、プリーストリー、ラボアジェ、ドルトン、アボガドロなどの天才・巨星が次々に現れ、近代的な物質観の確立に大いに貢献した歴史の流れには、人類の大きな“こころざし”を見る思いである。
ドルトンが最初に用いた元素記号は20種類であったが、その後もどんどん発見され、とりわけ19世紀に入ってからの元素の発見には、目覚ましいものがあった。現在では、約90種類の元素が自然界から発見され、人工的に29種類がつくられている。

ところで、これまで無造作に使ってきた「元素」や「原子」について、いったいどのようにとらえておけばよいのだろうか?少し考えてみよう。まず、手もとにある辞書(『広辞苑』〔第七版〕岩波書店)で「元素」を引いてみる。

 

元素element ① 万物の根源をなす究極的要素。古代ギリシャにおける土・空気・火・水。② 化学的手段(化学的反応)によっては、それ以上に分解し得ない物質。単体に対してもいった。③ 原子の種類。金・銀・銅・鉄・水素・酸素・炭素・窒素など。原子番号の等しい原子は同じ元素である。現在、自然界に90種余り、人工的な元素を含めて110種余りが知られる。

 

元素に関しては、だいたいわかった。それでは、元素と原子はどう違うのか?次に、原子を調べてみよう。

 

原子atom ① 〔哲〕アトム。②物質を構成する単位の一つ。各元素のそれぞれの特性を失わない範囲で到達し得る最小の微粒子。大きさはほぼ一億分の一センチメートル。原子核と電子からなる。

 

これでなんとなく元素と原子の違いがわかったような気がするが、もう一つしっくりこない。これについて、無機化学研究者の斎藤一夫がたいへいわかりやすく解説している(斎藤一夫『元素の話』培風館)。これをアレンジして、元素と原子の違いを見てみることにしよう。

 

一言でわかりやすくいえば、「原子」は「物質を構成する具体的な要素」である。すなわち「原子」は物質を構成する実体のある粒子のことである。たとえば、水素ガス(水素分子)や窒素ガス(窒素分子)という物質を構成する粒子は、それぞれ水素原子や窒素原子ということになる。
これに対して、「元素」は「性質を表す抽象的な概念」である。私たちが住む世界では、水素原子は水素ガス、水、アルコール、糖、アミノ酸、タンパク質などさまざまな状態で存在している。このようなすべての状態を含めた水素原子のことを、概念として「元素」とよんでいる。
したがって、原子の種類と元素の種類は一致している。宇宙にあるものは「すべて何かの原子からできている」ということを、「すべて元素からできている」といってよいし、「元素はすべてのものをつくるもとである」といってもさしつかえない。

 

これでようやく、元素と原子の違いがわかりやすくなった。元へ戻って、原子は原子核と電子からできているとあった。そこで、原子核と電子を引いてみよう。

 

原子核 atomic nucleus原子の中核をなす粒子。原子にくらべるとはるかに小さいが、原子の質量の大部分が集中しており、陽電気を帯びる。陽子と中性子より成り、陽子の数が原子番号、両者の総数が質量に等しい。核。
電子 electron 素粒子の一つ。原子・分子の構成要素の一つ。十九世紀末、真空放電中に初めてその実在が確認された。静止質量は(数式略)キログラム。電荷は(数式略)クーロンで、その絶対値を電気素量という。スピンは1/2。記号はeまたはe―。エレクトロン

 

ここでさらにわかったことは、原子核は陽子と中性子からできていることである。では、陽子と中性子も引いてみよう。

 

陽子 proton 水素の原子核。電子の一八三六倍の質量と、電気素量に相当する陽電荷を持つ。スピンは1/2。素粒子の一つで、中性子と共に原子核の構成要素。(数式略)年以上の寿命を持つとされ、陽子の安定性は物質の安定性の基礎である。プロトン
中性子 neutron 素粒子の一つ。陽子よりわずかに大きい質量を有し、電荷を持たず、物質中の透過性が強い。陽子とともに原子核を構成する。一九三二年、Jチャドウィックがアルファ粒子をベリリウムにぶつけたとき発見。ニュートロン。

こうしてようやく、元素や原子が一般的にどのようなものであるかは理解できた。以上をまとめると、原子は、図Aのように描かれる。しかし、実際の原子は、原子核が真ん中に集中して、そのまわりを電子が飛び回り、やわらかな電子雲をつくっている(図B)。このモデルは量子力学的に考察されたものだが、ここでは量子力学までは踏み込まない。おおよそこのようなものだとイメージを描いていただければ、本書を理解するうえでは十分である。
なお、本書では「核種」や「同位体」という言葉も随所に登場する。これも見ておこう。

核種 nuclide 核の種類。同位体原子核を一つ一つ区別していう呼称。
同位体 isotope 原子番号が同じで、質量が異なる元素。すなわち陽子の数が同じで、中性子の数が異なる原子核をもつ原子。水素と重水素の類。周期表上で同じ場所を占めるのでギリシア語のisos(同じ)とtopos(場所)を合成して原語が与えられた。アイソトープ。同位元素。

つまり、「原子」は原子番号Z(陽子数)のみで表してもかまわないが、「核種」は原子番号Zと質量数A(原子核を構成する陽子と中性子の数の和)の二つで規定される原子のことを指し、「原子」より厳密に元素を表す言葉として用いられる。 
現在、自然にある元素と人工的につくりだされた元素をすべてあわせると118個を超える。本書は、元素名がつけられている原子番号118までの元素について、原子番号順に一つずつ解説してある。「はじめに」でも触れたように、元素はそれぞれに個性をもち、実にさまざまな働きや機能をもっている。まずそのことに驚かされる。
また、陽子の数がたった一個違っただけでまったく異なる元素になり、まったく違った性質を示すことのふしぎも感じるだろう。中性子の数が違うために、同じ元素でも炭素14のように放射性になったり、炭素12や炭素13のように非放射性になる場合がある。陽子の数も中性子の数も同じなのに、ダイヤモンドになったり炭になったりする炭素のような元素もある。
本編に入る前に、おおよその元素の分類と、本編のデータを見る際の注意を簡単に記しておく。
何はともあれ、元素の世界を大いに楽しんでいただきたい。

 

元素の分類

典型元素
周期表の1、2、13~18族の50元素のことをいう。これら以外は遷移元素という。ただし、104番ラザホージウムから118番オガネソンまでの元素の化学的性質はまだ不明である。
遷移元素(dブロック元素、fブロック元素)
周期表の3~12の68元素のことをいう(12族を遷移元素に含めない場合もある)。原子番号が増すにしたがって、dまたはf軌道に電子が満たされていく元素である。
アルカリ金属元素
典型元素の1族に属する6元素。リチウム、ナトリウム、カリウムルビジウムセシウム、およびフランシウム。+1の陽イオンを生じる。電気的にも最も陽性で融点が低く、電気伝導性、熱伝導性が高い。
アルカリ土類金属元素
典型元素の2族に属する6元素。ベリリウムマグネシウム、カルシウム、ストロンチウムバリウム、およびラジウム。+2の陽イオンを生じる。
ハロゲン元素
典型元素の中の17族に属する6元素。フッ素、塩素、臭素ヨウ素アスタチンおよびテネシン。1個の電子を受けとると、化学的に安定な貴ガス元素と同じ構造になるため、-1の陰イオンおよび2原子分子X2になりやすい。
貴ガス元素
典型元素の中の18族に属する7元素。ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドンおよびオガネソン。化学的に安定かつ不活性であるため、不活性ガスともいう。
希土類元素
3族に属するスカンジウムイットリウムの2元素に、ランタノトド15元素を加えた合計17元素をいう。
金属元素
ホウ素、ケイ素、ゲルマニウムヒ素、セレン、アンチモンテルルビスマスポロニウム。単体では金属と同じ電気伝導性を示すが、金属と比べると電気抵抗率がかなり高い元素をいう。
104番ラザホージウムから118オガネソンまでの元素の化学的性質は、まだよくわかっていない。


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