犬棒辞典3
『寡聞[かぶん]=見聞がせまいこと
《時間には、いろいろな種類がありそうな気がする。それなら、時間の適当な分類が、どこかにありはしないかと思って探してみたが、まだ見つからない。時間に関する議論は、おびただしい数に達するであろうから、時間の分類体系が確立されていてもよさそうなものだが、寡聞にしてそれを知らない。》
「臨床時間学 - 養老孟司」中公文庫 毒にも薬にもなる話 から
『滄桑[そうそう]の感、滄桑の変=様変り、世の中の急激な変化、』
この文を読んで、現在はセメントの新道路が松竹座の前から三ノ輪に達し、また東西には二筋の大道路が隅田川の岸から上野谷中の方面に走つてゐるさまを目撃すると、曾て三十年前に白鷺の飛んでゐたところだとは思はれない。わたくしがこの文についてここに註釈を試みたくなつたのも、滄桑の感に堪へない余りである。
「里の今昔 - 永井荷風」日本の名随筆 色街 から
『中今[なかいま]=神道における歴史観の一。時間の永遠の流れのうちに中心点として存在する今。
《心配せずにあの世へいくためには、ちょっとした準備体操が必要です。それは、毎日を丁寧に生き、毎日を楽しむことです。もちろん、人生は楽しいことばかりではないかもしれません。でも、小さい子どもが目の前のことに夢中になっている姿は私たちが理想とする姿です。そんな姿が「中今[なかいま]を生きる」ということです。》
「目の前のことに夢中になる - 矢作直樹」安心して、死ぬために から
『一張羅[いっちょうら]=たった一枚の上等の着物(一本しかない蝋燭、一丁蝋燭が訛って一張羅となった)』
《 今後は「もったいない」というケチくさい考えは捨て、気に入った服(といっても一着しかない)をどんどん着ようと決心するが、近所の郵便局に速達を出しに行くだけのために一張羅のスーツを着て行くのはもったいないという感はどうしてもぬぐえない。》
「もったいない - 土屋賢二」文春文庫 不良妻権 から
『犀利[さいり]=鋭い』
《これの筆者は、主に児童文学や児童教育について批評文を書き、その方面では第一人者といはれてゐる。ほかに婦人問題についても批評文を書いてゐる。いつも犀利な見方した理論的な批評文を書く人だが、この引札の文章は案外のどかである。何となく気が置けないやうな気持がして、つい出かけて行きたくなる。ここがそれを書いた人の狙ひだらうか。》
「引札 - 井伏鱒二」日本の名随筆23 天野祐吉編 広告 から
『尉[じよう]= 炭火の燃え終って白くなったもの』
《 手焙[てあぶり]やあらかた尉[じよう]となる温[ぬく]み(上西左大信)》
朝日俳壇、令和2年12月6日